現代アメリカの陰に光をあてる洗練された愛の映画『ムーンライト』【管理人のグダグダ映画感想文】

ムーンライト

ムーンライト

『ムーンライト』 via The New York Times

『ムーンライト』(2016年、アメリカ)
監督:バリー・ジェンキンス
出演:トレヴァンテ・ローズ、ナオミ・ハリス、マハーシャラ・アリ、アンドレ・ホランド、ジャハール・ジェローム、アレックス・ヒバート、他

名前はシャロン、あだ名はリトル。内気な性格で、学校ではいじめっ子たちから標的にされる日々。自分の居場所を失くしたシャロンにとって、同級生のケヴィンだけが唯一の友達だった。 高校生になっても何も変わらない日常の中で、ある日の夜、月明かりが輝く浜辺で、シャロンとケヴィンは初めてお互いの心に触れることに…
公式サイトより)

今年のアカデミー賞作品賞を受賞した今作、公開されて間もないので、もちろんネタバレなしでお届けします。

鑑賞直後の感想としては、111分という時間が示す通りコンパクトで無駄がなく、濃密で洗練されている印象だった。逆に言うならばもう少し時間を使ってじっくりと味わいたかったような気もするぐらいだ。

貧困地区の麻薬汚染の連鎖や悲惨ないじめ、セクシュアリティをめぐる葛藤は重苦しくもあるが、車の動きや音楽に合わせた移動撮影や、印象的かつ控えめな音楽の使い方にも次世代的な洗練のされ方を感じて、主人公の純粋な性格にも似た抑制的な美しさを発揮していた。長編2作目とは思えないバリー・ジェンキンス監督の才能と手腕に目をみはるばかりだ。

事前に宣伝されていたように、この映画はとある黒人青年の少年時代から青年期までを描いた物語ではあるが、決して丹念に成長を描いたというものではなく、描かれるのはどちらかというと断片的だ。その空白の時間に思いを馳せつつ、母、父親代わりの男、初恋の人に対する、失ったり取り戻したりする切ない愛の物語だということに気づく。貧困、麻薬、同性愛など、非常に現実的な困難に翻弄され抗う愛の力強い美しさをスマートに描ききったバリー・ジェンキンス監督と、抑制的で時に激しい、見事な演技を見せた俳優陣に手放しで拍手を送りたい(個人的には、大事件をいくつも経験する思春期を演じたジャハール・ジェロームの演技が印象的だった)。

この作品で描かれるような貧困や麻薬問題、いじめやセクシュアリティの葛藤など光の当たりにくい世界に光を与えた作品がアカデミー賞の栄冠に輝いたという、2010年代アメリカを象徴する出来事を体験するためにも必見の作品だということを付け加えておきたい。

直接関係ないので余談となるが、アメリカの黒人居住区における麻薬問題の連鎖について、ドキュメンタリー番組を見たことがあった。のでこちらに記しておこうと思う。

参考:“アメリカン・ゲットー” 麻薬戦争と差別の連鎖(NHK)

残念ながら前後編のうち前編しか見られていないのだが、ここでは黒人社会での麻薬犯罪への刑罰が厳しすぎることで連鎖が止まらないのではないかという疑問を投げかける内容だった。それこそ『ムーンライト』とは直接関係ないものの、黒人社会と貧困、麻薬問題を語る上では見逃せない実情が横たわっている。概要だけ上記ページに記載されているので興味があれば覗いてみてほしい。

『ムーンライト』公式サイトによると、原案となった戯曲『In Moonlight Black Boys Look Blue』の作者とバリー・ジェンキンス監督はいずれも映画の舞台にもなったマイアミの出身で麻薬中毒者の母親に育てられたそうだ。この映画が洗練されているだけではないリアルな「ざらつき」を見せていることに無関係ではないだろう。

『ムーンライト』予告編

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